”カネカネカネ”の世の中です。
金をめぐる争いほど、醜いものはありません。
そんなしょうもない争いは、国同士でも行われています。
その際たる例が、移転価格税制です。
移転価格税制は、外国に子会社を持つ多国籍企業は関わりうる税制です。
是非ともチェックしておきましょう。
移転価格税制!!
— きんだめ (@kindame) 2015年4月22日
移転価格税制とは?多国籍企業はしっかり理解しよう!
移転価格税制とは、グループ企業間の所得移転に対する税金を、日本で課せようとする税制です。
近年、世界中で整備が進んでいるホットな税制です。
この移転価格税制をしっかりクリアできるよう、移転価格税制とは何か、まとめていきます。
移転価格税制とは?
まずは、移転価格税制とはなにか?みていきます。
移転価格は、親子会社や兄弟会社など、関連企業間の取引に適用される取引価格を示します。
グループ企業の場合、税率の低い国へ関連企業を集中させがちです。(どこの企業も税金を減らしたいものです)
それに対し、海外関連会社との間での所得移転に対する税金を、日本で掛けようとする税制が移転価格税制です。
移転価格税制とは
内国法人の海外系列会社などとの取引価格の操作に対し、第三者との取引価格と照合して所得を計算し、これに基づいて課税する税制。
国によって法人税率に格差がある場合、税率が低い国にある子会社への販売価格を低くすれば、親会社の所得が低くなり税額も少なくなるので、企業グループ全体では税負担を軽減させることができる。
移転価格税制はこうした取引価格が不当と判断された場合に、関連企業ではない第三者との取引価格を移転させて税額を算出するものである。ブリタニカ国際大百科事典より
移転価格税制は国同士の税金の奪い合い?
移転価格税制について財務省のHPを見てみると、難しい言葉がたくさん並んでいます。
もっともらしい説明がされているように感じます。
しかし、よくよく紐解いて調べると、「これってただの税金の奪い合いじゃん!」となります。
・・・
例えば、日本の親会社「オヤジッチ」が、外国の子会社「コドモーズ」に対し、相場よりも安い価格で製品や原材料を販売したとします。
すると、オヤジッチの利益は減りますが、納税額を抑えることができます。
結果的に、日本の税収は低下します。
その一方、コドモーズは安い価格で仕入れたものを、通常の価格で販売します。
その結果、コドモーズの利益は大きくなります。外国政府の税収も増加します。
この状態を許せば、オヤジッチのように、成立の低い国に会社を建てまくる企業が増加します。
そうなると日本の税収は減るばかりです。
なので、移転価格を考慮して税金を課しましょう!というのが移転価格税制です。
移転価格は独立企業間価格で計算される
移転価格税制は計算方法が決まっています。独立企業間価格です。
独立企業間価格とは
独立企業間価格(Arm`s length price)とは、海外の関連企業(国外関連者)との取引が、同様の状況下で非関連企業との間で行われた場合に成立すると認められる価格をいう。
実務家のための法人税塾より引用
独立企業間価格には計算方法が複数あります。
以下の方法から、適切なものを選びましょう。
なお、移転価格事務運営指針によると、独立価格比準法(CUP法)が最も優れた方法だとされています。
次に、再販売価格基準法(RP法)と原価基準法(CP法)良い算定方法であるとされています。
独立企業間価格の計算方法
1.基本三法およびこれに準ずる方法
|
2.その他の方法
|
移転価格税制が適用される取引
移転価格税制が適用されるのは、国内企業が国外関連者との間で行う以下の取引です。
移転価格税制が適用される取引
|
また、たとえ第三者を介在させていたとしても、実質的に国外関連者と行われる金銭の貸付、保険、信用の保証といった役務提供取引等も、ここに含まれることになります。注意が必要です。
移転価格税制対象者は「移転価格文書」を作成する義務がある
移転価格税制が適用される人は、移転価格文書の作成義務があります。
国外の関連会社と取引を行った際、書類を作成し、保存しておかないといけません。
これは、「同時文書化義務」と呼ばれています。
移転価格税制における同時文書化義務とは
|
なお、前期の取引金額が50億円未満であり、かつ、無形資産取引金額が3億円未満である場合、この同時文書化義務は免除されています。
が、一筋縄に「同時文書化義務がないからラッキー!」とは言えません。
というのも、たとえ同時文書化義務がなくても、税務調査の際、税務調査官が提出を求めた日から60日以内の指定日までに、ローカルファイルの提出が必要だからです。
ローカルファイルを提出しなかった場合、調査官は推定課税を行うことができます。
推定課税とは、類似の取引を行う第三者から入手した情報に基づき行う課税です。
ということで、たとえ同時文書化義務が免除されていたとしても、移転価格文書の作成&保存は必要です。
前年度の連結総収入金額が1,000億円以上の内国法人はマスターファイルの提出が必要
前年度の連結総収入金額が1,000億円以上の多国籍企業は、上記ローカルファイル以外に、下記書類が必要です。
たくさんあって大変ですが、しっかり準備しましょう。
ローカルファイル以外の必要書類
|
マスターファイルについて補足しておきます。
マスターファイルとは
マスターファイルとは、簡単に言えば、多国籍企業のグループ活動の全体像です。
それがわかるよう、書類を作成しておく必要があります。
マスターファイルとは
- 税務当局が重要な移転価格リスクを特定できるよう、グループ全体の「青写真」を提供
- 多国籍企業グループの組織構造、事業の概要、 財務状況等に関する情報を記載
国税庁「移転価格税制に係る文書化制度 (FAQ)」より引用
マスターファイルの記載内容は下記です。
マスターファイルの記載内容
|
移転価格文書の提出は忘れずに!
移転価格税制は、当該企業は絶対に守らないといけない制度です。
国税庁は、移転価格文書の提出を忘れている会社に対して、推定課税の権利が与えられます。
そうなれば、多額の納税が発生します。過去の分も遡られます。
HOYA、50億円追徴=移転価格税制で再び課税
— シャーリー♂ (@shirley_invest) 2018年6月28日
推定課税とは
推定課税(推定規定)とは、同業他社の利益率等を用いた「みなし利益率課税」を行うことです。
税務当局は調査にあたり、調査対象会社に国外関連者との取引を独立企業間価格で行っていることを証明する資料の提出を求めます。調査対象会社が当該書類を遅滞なく提出しなかった場合、推定課税の検討を行うことになります。
この推定課税を避けるために、移転価格文書の作成が必要となります。押方移転価格会計事務所より引用
【おさらい】移転価格税制による追徴を避けるために
ここまで、移転価格税制とはどんなものか見てきました。
移転価格税制の存在を忘れていると、追徴になってしまいます。
そうならないために、どんなことに注意すべきかまとめておきます。
移転価格税制で追徴を受けないようにするために
|
それぞれの詳細を見ていきます。
1.日本と海外子会社所在国の移転価格税制に関して、きちんと理解しよう!
移転価格税制が導入されているのは日本だけではありません。世界中で導入されています。
例えば、日本側に多くの利益が計上されていて、日本でのリスクが低い場合には、逆に取引相手国でのリスクが高まることがあります。
どこの国も税金が欲しいんです。
日本だけでなく外国の移転価格税制も、しっかり理解しておきましょう。
2.海外子会社との取引状況や損益状況をきちんと把握しておこう!
海外子会社との取引内容や取引条件、取引量、当該取引に係る価格・コストといった損益状況は常に変化しているのが一般的です。
それらの情報を逐一きちんと把握するのは大変です。
しかし、移転価格税制のリスクに対処するためには、これらを継続的にモニタリングする必要があります。
そして、変化がある場合には、社内の管轄部署に適示に報告する体制を整えておくことが必要です。
3.移転価格文書を作成しよう!
原則として、①国別報告事項、②マスターファイル、③ローカルファイルの3つの移転価格文書の提出、または、作成・保存が義務化されています。
その義務は、連結売上高や海外子会社との取引金額が一定未満の場合には免除されています。
文書の種類ごとに作成義務の有無を検討しましょう。
そして、必要に応じた書類を作成しましょう。
最後に
移転価格税制について見てきました。
世界では、移転価格税制の整備や改正が進んでいます。
そういう意味では、旬の税制です。
移転価格税制違反は簡単に企業からお金を取れるという事に、ベトナム政府は5年程前から気づきだしたみたいです、っていうセリフが出てきてジワジワきてる。
— ミートワールド (@superpeachman) 2016年11月24日
移転価格税制はハッキリ言ってしょうもない税制です。
しかし、そんなしょうもない税制に足元をすくわれてしまわないよう、しっかりと理解していきましょう!
ポイントとしては、税務当局に対しての、説得力のある移転価格文書を作成しておくことです。