1980年代から続いてきた究極の節税方法「ダブルアイリッシュ・ダッチサンドイッチ」(Double Irish with a Dutch Sandwich)。
アメリカ・Apple社(アップル)が追徴課税130億ユーロを課され、さらにはアイルランドでも対策が決定され、この節税方法にも終わりが見えてきました。
グーグル、アマゾン、スターバックス、シスコ・・・
世界を代表する大きな企業が行ってきたこの節税スキームを、グーグルを例に、わかりやすく解説します。
目次
ダブルアイリッシュ・ダッチサンドイッチとは?
ダブルアイリッシュ・ダッチサンドイッチは、世界の名だたる会社を始め、多くの企業が採用してきた究極の節税スキームです。
1980年代後半にアップルが採用しました。
例えばグーグルは、このスキームを使い、年間10億ドルほど節税してきた歴史があります。
(たぶんもっと多いと思いますが、判明しているのは10億ドルほどです)
合法ですが、「自分の国に税金を落とさないって、モラル的にどうなん?」と、長い間議論が続けられてきました。
しかし、アップルが追徴課税され、ダブルアイリッシュの本場「アイルランド」でも対策がなされ、ダブルアイリッシュ・ダッチサンドイッチは終わりを告げつつあります。
今までダブルアイリッシュ・ダッチサンドイッチを採用してきた企業が、今後どのような行動を取っていくかが注目されています。
ダブルアイリッシュ・ダッチサンドイッチの言葉の意味 ダブルアイリッシュ:アイリッシュ(アイルランド)に2つの会社を設置し、活用すること ダッチサンドイッチ:アイリッシュとの取引に、ダッチ(オランダ)をサンドイッチ(挟む)こと |
今回登場する主な企業は下記です。
グーグルのダブルアイリッシュ・ダッチサンドイッチに関わる主要企業
アメリカ | グーグル本社 |
アイルランド | 法人A:グーグル・アイルランド・ホールディングス
法人B:グーグル・アイルランド・リミテッド |
オランダ | 法人:グーグル・ネダーランズ・ホールディングスBV |
イギリス領バミューダ諸島 | 管理会社 |
では、これらが実際に節税していく様子をみていきます。
グーグル本社とアイルランド法人Aグーグル・アイルランド・ホールディングスとの関係
アメリカのグーグル本社は、アイルランド法人Aグーグル・アイルランド・ホールディングスに海外でのビジネスライセンス(本社で開発したシステムを利用する権利)を付与します。
グーグル・アイルランド・ホールディングスはライセンス使用料をアメリカ本社に支払います。
これが本社とアイルランド法人Aとの関係です。
アイルランド法人Aとバミューダ諸島の管理会社との関係
アイルランド法人Aグーグル・アイルランド・ホールディングスは実は、バミューダ諸島の管理会社が管理をしています。
アイルランドの税制では、他の会社に管理されている営業実態のない会社は、非居住者となり課税されません。
(後ほど説明しますが、アイルランド法人Aには営業実態がありません)
じゃあ課税はどこでされるのかというと、実際に管理している法人の国(バミューダ諸島)で行われます。
バミューダ諸島は法人税や所得勢が発生しない実質的なタックスヘイブンです。
このためバミューダ諸島でも税金は発生しません。
グーグルはタックスヘイブンの特徴を持つバミューダ諸島を利用しました。
タックスヘイブンのバミューダ諸島で事業を行わない理由
グーグルがなせ直接バミューダ諸島で事業を行わないのかという話をします。
1つは、より効率的に節税するためです。
アイルランド・オランダ・バミューダ諸島・・・これらの国の税制の特徴を最大限に生かすことで、効率良く節税を行なっています。
節税の効果を最大限に発揮する仕組みがダブルアイリッシュ・ダッチサンドイッチです。
もう1つは、バミューダ諸島が事業に向かないからです。
タックスヘイブン国は、他の国から目を付けられがちです。
他国との資金のやりとりが禁止されてしまうなど、制限を受けることがあります。
そのため、事業には向いていません。
アイルランド法人AとBの関係
アイルランド法人Aグーグルアイルランドホールディングスは、アイルランド法人Bグーグル・アイルランド・リミテッドにサブライセンスを付与します。
これにより、営業実態はアイルランド法人Bに移ります。
これで法人Aの営業実態は完全になくなりました。
代わりにアイルランド法人Bが営業実態を握ります。
アメリカ国外のすべての事業収入はアイルランド法人Bグーグル・アイルランド・ リミテッドに集まります。
アイルランド法人Bは、アイルランドの法人税が課税される仕組みです。
そこで、アイルランド法人Bは、利益を全てアイルランド法人Aにライセンス料を払います。
これでアイルランド法人Bの所得はなくなり、課税の心配がなくなります。
ここまでのまとめ
- アイルランド法人A:アイルランド非居住者のため非課税
- アイルランド法人B:所得がない。法人税がない
- バミューダ諸島:無税(あったとしても低税率)
アイルランド法人A・Bとオランダ法人グーグル・ネダーランズ・ホールディングスBVとの関係
アイルランドでは、ライセンス領の支払い(B→A)のタイミングで、源泉徴収が発生します。
これはつまり、税金を差し引いた金額でしかライセンス料が支払えないことを意味します。
つまり、B→Aの支払いで税金が発生してしまいます。
ここで、ダッチサンドイッチを活用します。
そうすれば、租税条約上、税金が発生しません。
アイルランド法人Bグーグル・アイルランド・ リミテッドは、オランダ法人グーグル・ネダーランズ・ホールディングスBVにライセンス料を支払います。
オランダ法人グーグル・ネダーランズ・ホールディングスBVは、アイルロンド法人Aグーグル・アイルランド・ホールディングスにライセンス料を支払います。
ダッチサンドイッチにより税金が発生しなくなる理由は下記です。
ダッチサンドイッチが採用される理由
アイルランド=オランダ間では、ライセンス料を含むロイヤリティー(特許使用料)の支払いに税金が発生しません。
これは、租税条約によって決まっています。
アイルランド=オランダが租税回避の手法としてよく使われるのはこのためです。
アメリカにはタックスヘイブン税制がある
アメリカには、タックスヘイブン税制という節税する人向けの税制があります。
これは、営業実態のない子会社が、タックスヘイブン国で得た利益に対して、本国アメリカの親会社(グーグル本社)で課税される制度です。
この税制のため、単純にタックスヘイブン国法人に利益を集めるだけでは課税を免れられません。
しかし、このタックスヘイブン税制すら逃れるのもダブルアイリッシュ・ダッチサンドイッチです。
ダブルアイリッシュ・ダッチサンドイッチでは、アイルランド法人Aは営業実態がありません。
しかし、アイルランド法人Bを支店という形にしています。
これにより、2法人合わせて営業実態があると判断されます。
よって、タックスヘイブン税制を免れています。
ダブルアイリッシュ・ダッチサンドイッチまとめ
以上、ダブルアイリッシュ・ダッチサンドイッチでした。
グーグルの事業で発生した収益は、どのように税務処理されるかをまとめます。
ダブルアイリッシュ・ダッチサンドイッチまとめ
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最後に
ダブルアイリッシュ・ダッチサンドイッチは合法ですが、「自国の国にお金を落とさないなんてどうなの?」とモラルを疑われてきました。
そういった歴史の中で、アイルランドが優遇税制の期限を設け、「今の制度が通用するのも2020年末までですよ」と決定し、歴史が動いたように思います。
タックスヘイブンの国は、情報開示を拒んできたところが歴史がありますが、タックスヘイブン國の情報もどんどん透明化してきています。
お金が「見える化」されてきていますね。
今まで見えなかったことがどんどん見えるようになってきています。
そうして、世界が良い方向に進むことを心からお祈りします。